真っ白なホワイトボード VOL.1

~福祉をサービス業へ、世界への挑戦物語~

「人の心を晴れ晴れとさせる」という名をもつ、日本で一番高いビル。その展望フロアーから東に見える生駒連山、北に目をやれば、大阪城に通天閣、天王寺動物園、なんばや梅田のビル群、遠くには万博記念公園の太陽の塔が見えている。

―佐藤たちは、確か太陽の塔やったな。

木村政光は、ここから佐藤たちが見えるはずないか、と思いつつも、目を凝らさずにはいられない。2021年の春、57名の新入社員を採用した。「新戦力」と呼ばれるフレッシュマンたちは、今朝から、ここあべのハルカスチーム、太陽の塔チーム、大阪城チーム、通天閣チーム、梅田スカイビルチームの五つのチームに分かれて、今頃はそれぞれの場所で辞令交付を受けているころだ。

大阪の高いところばかりを選んで先輩たちが企画した、この入社イベントを思いきり楽しんでほしいと木村は願う。彼らが、どの部署で働くにせよ、いずれ向かい合わねばならない壁を乗り越えていくためには、自分一人の力だけでは到底不可能なのだ。せめて同期入社のメンバーたちが、強いきずなで、どこにいても手を差し伸べることができる環境があれば、これからの職業人人生を果敢に生き抜く力になるに違いない。そんな原点の時と財産を創出するイベントであるのだ。

そしてともに高みを目指していこうと、選んだ場所だった。

―俺と佐藤がそうだったように。

木村は、神戸・六甲の山々を望む西側から関西国際空港の見える南の窓へ移動しながら、まだ感慨に浸っている自分に我ながら驚いていた。

そして南に目をやれば、長居公園が見える。

―あそこからホームの運営が始まったんや。

―やっとここまで、いやこれからか。

「木村さん。そろそろ昼食会場へ、向かいましょう。」にこやかな、桜田恵美の声が、木村を現実に引き戻す。木村は、ちょっと照れくさそうな顔で、「ほな、行こか。」と応えて歩き始めた。

―こんな時が来るとは、大学時代からの友人の佐藤真一と二人で会社を始めたころには、想像もしなかった。

―いや俺はやっぱり、どこかでこうなることを信じて疑わずにきたかもしれへん。

―ほんまにゼロというよりマイナスからのスタートやったけどなあ。

「ほんまにマイナスからやった。」思わず出た木村の声に、桜田が驚いて振り返る。しかし、すぐに、笑顔でうなづく。木村の想いは桜田にも瞬時に伝わっている。

今度は心の中でしっかりとうなづき返しながら、再び歩みだした木村であった。

つづく

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