～福祉をサービス業へ、世界への挑戦物語～
第４章「革命」
その２「か細い乙女」

「今まで貴方が取り組んできたボランティアとは、全く違う世界です。僕には、この仕事が貴方にあった仕事とは思えないです」

ロングライフ長居公園へすぐ来なさい、と告げられた時間は迫っていた。写真を撮る時間も、職務経歴書を用意する時間もない。たまたまもっていた友人と写したスナップ写真の一枚を、証明写真の大きさに切り抜いて貼り付け、走り書きで何とか体裁を整えた履歴書を握りしめて桜田恵美は佐藤真一との約束の場所へ出向いた。

心細い気持ちのまま、桜田は佐藤と向き合った。開口一番に言われた「貴方にこの仕事はできない」という言葉にうちのめられそうになりながらも、必死に佐藤の目を見返し続けた。

『百万人の福音』に載っていた「日本一小さな有料老人ホーム」その老人ホームを作った人が目の前にいる。そして、こんなにも熱く想いを語ってくれている。まるで子供を叱りつけるような言葉であるが、それはこの仕事への誇りと夢の強さに他ならないと感じた。

「僕たちが目指しているのは、今までの入居者が介護される老人ホームではありません。一人の自立した人間が、尊敬され、人としての誇りを損なわれることなく、社会とつながったままに人生を全うする場所です。僕は福祉はサービス業だと考えています。ホームに居るすべての方々に、最高のサービスで幸せになってもらうことなんです。ボランティアではありません。そんな老人ホームは今までなかった。なかったものを作っていく仕事です。生半可な気持ちではできない、大変重要な責任ある仕事です。決してきれいな仕事ではありませんし、体力も気力もいる仕事です。それが、今までメディアの華やかな世界で仕事をしてきた貴方に到底できるとは僕には思えない。採用するかどうかの結果は後で連絡しますが、今日、貴方と会っての率直な意見を述べさせていただきました」

「だからこそ、だからこそ、私はここに来たんです。私はやりたいんです！必ずできます！遣り遂げて見せます！」そう叫びたい気持ちを伝えられずに、桜田はうなだれた。

桜田が帰った後、佐藤は一緒に面接を受け持ったホーム長の正木和彦に宣言するように言った。「彼女には申し訳ないが、採用には断固反対や」
あんな小柄な細い体で体力がいる介護の仕事など到底無理だ。佐藤には桜田が世間知らずの心優しいか弱い乙女にしか見えなかった。いや見えていなかったのかもれない。

つづく